水銀 インタビュー記録 日付:2017/■■/■■ 場所:猫炭スミ住居 概要: 排泄及び生殖に関する重要な身体的特徴 水銀摂取時の特異な反応  おお、ありがとう。おうおう、こんな丈夫で飲みやすそうな容器にまで入れてもらって。ありがたやありがたや。ああ、気持ちは嬉しいがここで飲むわけにはいかんな。お主らに危害を加えてしまう。  昔どこかの工場で働いている男と知り合った時、水銀を見せられて、これから銀が作れないものかと聞かれてな。当時の儂は元素なんていうものの知識はなかったし、液体の金属などあまり触れたことがないものでな、やってみようかと答えた。今考えてみればおかしな話じゃ。原子を別の種類の原子に変えるなど、月をスッポンに変えるようなもんじゃ。  まあともかく、水銀を容器から出してみる。するとな、いい匂いがするんじゃこれが。それでは試しに飲んでみる。これが独特の風味があってうまい。それこそ銀のような濃厚な味がする。銀も作れるやも知れぬと思うた。  ところが飲んでからというもののどうも様子がおかしい。クラクラする不思議と気分が高ぶって来る。どうもこれは人がよったときのようだなあと思っとったところへ、先の男が儂を押し倒してきてな。これはおかしいぞと思ったが、どうもこう、むらあっっときてしまったらしいのだ。水銀を飲むと何かふえろもん?でも出るのかのう儂。 さて困ったことに、儂は厠にもいかぬし月の物もない。そもそもそういう体の部位がない。脱がされるままになっとったが、脱がし終わってそれがわかっても収まりがつかぬようでな。仕方なし、その、別の方法でな、何とか収まりをつけてやったのじゃ。詳しくは言わんぞ?  ところが翌日からどうも男の調子がおかしい。医者に行っても原因がわからぬ。大きな病院へ行ってやっとそれが水銀中毒らしいとわかった。後からわかったことだが、水俣病は有機水銀が原因の病じゃが、これはそれにだいぶ近い症状だったらしい。  悪いことをしたと儂も謝り倒そうと思ったが、そやつも中々できた男でな、いくら事情が特殊とはいえ、女を無理にやり込めようなどと悪事を働いた罰だと言ってな、儂を責めようなどとは一切せなんだ。儂は一生懸命宝石なんかをこさえて売ってお金を積んでお医者先生に頼み込んでいろんな治療をしてもらってだいぶ良くなったが、長生きはせなんだ。  そのときのからかのう元素だの何だのと科学の勉強をするようになったのは。おかげで儂が今までやってきたことが何だったのか大体わかるようになった。どうも儂には、原子と原子の繋がり方をいじることができるらしい。だから炭素からダイヤモンドが作れたし、水銀から銀は作れなかったわけじゃ。  いやいやそんな、全てが意のままではないぞ?お主は鶴を折れるか?渡来人からすれば神を自在に操っているように見えよう。だが、紙で龍を折れといわれたら困るじゃろう?それとにたようなものだな。儂は金属が一番扱い良い。ついで形のある固体、液体かの。気体は相当扱いが難しいでな。  そうじゃな、例えば、高水銀をちょっとだけ出して。離れておれよ。これが黒降汞(こくごうこう)これが赤降汞(せきこうこう)、これが黄降汞(おうこうこう)じゃ。味はあまりよくない。