コタツに二人の研究者が入っている。 一人は久藤琉笑。この部屋の住人だ。 もう一人はCthylla。琉笑の助手だ。 ただし、二人の目は死んでいた。 「……我が親愛なる助手Cthyllaよ」 「……何でしょう我が親愛なる久藤教授」 「……今年もクリスマスは大変であったなぁ」 「……そうですなぁ」 研究者は総じて変わり者が多いものだが、 殊にここはその度合が極まっている。 悟りを開いたと認定された僧侶がいたり、 霊を直視できる者がいたり、 毎日履いてる靴下が左右バラバラな人間がいたり、 しょっちゅう異世界を飛び回っている奴がいたり。 ゆえに、そんな環境のクリスマスパーティーは まさに阿鼻叫喚という有様であった。 「……まだ体が酒臭い気がする」 「……大丈夫ですよ、サウナにも入って、 アロマもお香もかけたじゃないですか」 「……まあそうなんだが」 確かに毎年妙な催し物はあった。 プレゼントのランダム交換は大人しい方で、 サンタコスプレ大会だったり、 食事の見た目と味がシャッフルされていたり、 飲み物に体型変化効果のある物がもれなく混ざっていたり。 そして今回は、会場に設置されていた 全てのプレゼントボックスが爆発し、 中から大量のビールが吹き出し、 そこからビールかけ大会が始まったのであった。 例年なら、プレゼントボックスは 25日になるまで開けられないギミックが仕込んである。 25日以降は自由に誰がどの箱の中身を 持ち出しても良いという決まりだった。 だからまさかこれがパーティーの仕掛けだとは 誰も思わなかったのだ。 「そういえば、今年はサンタの目星、ついたんですか?」 「いんや。今年も何の痕跡も残していかなかったよ」 「今年は空間歪曲の度合いも測ったんですよね?」 「ああ。ゼロ、だ。日付が変わった瞬間、 まるではじめからそこにあったかのように プレゼントが検出されている」 「……これ現実改変なんじゃないですかねもう」 「わからん。だが、その可能性も高いな」 クリスマスには毎年、全研究者の枕元に プレゼントが置かれる。 しかし、誰もその正体を知らない。 超常現象ん1つとして全研究者が こぞって捕獲作戦を実行しているのだが、 いまだに手がかりすらない。 「ちなみに私には教授のドールが届きました」 「ほう……へ?」 「すごい精巧な作りでビビりましたよあれは」 「……何者なんだ、サンタ」 「さぁ?……ちなみに、教授のとこは何がついたんですか?」 「リュート」 「またCDですか?」 「いや、本体の方だ」 「……弾けるんですか?」 「教本と楽譜もついてたよ」 「なるほど」 二人でココアを一口。 「大変といえば、例の巨大雪像龍はどうなったんだ?」 この時期は同時に雪の季節でもある。 今年は特に大雪だったため、 雪像制作大会にもなったのだが、 Cthyllaが妖精衆を動員して作った雪像が その妖気に当てられて動き出すという事件も あったのだった。 「やっぱり雪ん子系統の精霊化しちゃってまして。 冷気も自律的に発生させてるので、 新たな研究対象として飼育することになったようです」 「なんとまぁ……夏とか大丈夫なのか?」 「むしろ夏日も真冬日に変える勢いらしいです」 「……妖精衆はやっぱり扱いが難しいな」 「本人たちも無意識なので、しょうがないですね」 また、二人でココアを一口。 「……さみぃですねぇ」 「……さむいなぁ」 外は吹雪であった。 「……今日は泊まっていくか?」 「教授がよろしければ」 「もちろんいいとも。じゃあ今夜は豆乳鍋でもしようか」 「……お姉ちゃん大好き」 「はいはい、手伝っておくれよ?」 「Why not?」 そろそろ今年も終わり。 大掃除でまた一悶着あるのだが、 それはそれで又別の話だ。