「はい、そんなわけで琉笑博士、誕生日おめでとうございます」  助手のCthyllaが、綺麗にラッピングされた包みを琉笑に差し出した。 「ん、ありがとう。……一応確認しておくが、ジョークグッツだったりはしないよな?」  わざとらしく包を覗き込みながら、琉笑がおどけてみせる。 「大丈夫ですよ、そのあたりは心得ております。食べ物でもないし、開けた瞬間に飛び出すとかそういうのじゃないですからご安心を」  Cthyllaは自慢げに胸を張った。琉笑は毎年誕生日に大量にプレゼントをもらう。故に食料類は処理しきれない。また、中には厄介なジャークグッズも入っていたりして、そういうのはうんざりしているのだ。 「どれどれ……ん?」  袋の中の一番大きな箱を取り出した琉笑は、眉間にしわを寄せた。 「な、なんだこれは……?」  よくぞ聞いてくれましたという顔で、Cthyllaは朗々と語り始めた。 「アルテミア飼育セットです!たった数リットルのスペースで飼育できるよう全ての機能がコンパクトに纏められた水槽付き、しかも浮遊用の術式セットもついているので置き場所にも困りません!アルテミアはブラインシュリンプともよばれ、1億年以上姿を変えていない生た化石な無脊椎動物です!これとよくにた姿のものにホウネンエビというのがありますが、これに比べて縦横無尽に姿勢を変えて泳ぎ回るのが特徴でして……」  そこまでしゃべって、琉笑が微妙な顔をしていることに初めて気付く。 「あれ、もしかしてカブトエビの方が良かったですか?」 「……いや、これでじゅうぶんだよ、ありがとう」  琉笑はちょっと困ったような笑いを浮かべながら、箱を袋に戻した。Cthyllaの無脊椎動物好きの度合いは、琉笑が一番良く知っている。というか、Cthyllaよ、贈り物は相手の好きそうなものを選ぶものじゃないか? 「ん、まだ何か……」  琉笑が袋をあさると、二つ、薄い箱が出てきた。 「ああ、そっちはおまけです。リラクゼーション用のCD2枚」  Cthyllaの紹介は簡潔だった。だが対照的に、こちらの方が琉笑にとっては洗練された贈り物だった。 「ほほう、これはこれは……ちなみに、なんで今時CDなんだ?」  片方は波の音が録音されたヒーリングCD、もう一方はリュートのCD。どちらも、琉笑が気分が落ち着けるのによく聞くものだ。 「そりゃもちろん、例の汎用的なお部屋でも聞けるように、ですよ」  なるほど。 「ありがとう……だが、そんなに私は疲れて見えたか?」  琉笑がニヤリとしてみせると、Cthyllaもあははと笑う。 「いえいえ、博士の心に響くようなものを、というチョイスですとも、もちろん」  少し得意げなCthyllaの笑顔が、なぜだかちょっとくすぐったい。 「ふふふ……ちゃんと考えて選んでくれたんだな、ありがとう」  再び全部のプレゼントを袋にしまいながら礼を言う。 「いえいえ、どういたしまして!普段からお世話になっておりますから。あ、もし必要なら、カブトエビの卵はいくらでも予備がありますからおっしゃってくださいね!」  考えておこうかなと心の中でつぶやきながら、琉笑は苦笑する。 「さて、いいものをもらったから、私からも少し礼をしておこう。ケーキはいかがかな?」  琉笑の提案に、Cthyllaの顔がぱあっと明るくなる。 「是非是非!……で、今年は何ホールくらいあるんですか?」 「わからん……が、多分5つはある」  二人は笑いながら、研究室へ戻った。